神社の社格・格式とは?

日本全国には約8万社の神社が存在していますが、それぞれの神社には「社格(しゃかく)」と呼ばれる格式が存在していました。
社格とは、神社の地位や役割、歴史を示すランク付けのような制度のことです。
現在は第二次世界大戦後の1946年にGHQによる神道指令によって公的な社格制度は廃止されていますが、歴史的な格式や由緒は今でも神社を理解する上で重要な要素となっています。
本記事では、この神社の社格・格式について、歴史的背景から現代まで、わかりやすく解説していきます。
社格制度の歴史
古代の社格制度
日本における神社の格式の始まりは、701年の大宝律令まで遡ります。
この時代、神社は「官社」と呼ばれる国家の保護を受けた神社と、そうでない神社に分けられていました。
延喜式による社格(平安時代)
927年に完成した法令集「延喜式」には、朝廷から幣帛(神への供え物)を受ける神社のリストが掲載されています。
この延喜式神名帳に記載された2,861社の神社を「式内社(しきないしゃ)」と呼び、記載されていない神社を「式外社」と呼びました。
式内社はさらに以下のように分類されていました。
| 分類 | 説明 |
|---|---|
| 官幣社(かんぺいしゃ) | 神祇官(じんぎかん)から幣帛を受ける神社 |
| 国幣社(こくへいしゃ) | 国司から幣帛を受ける神社 |
| 大社・小社 | それぞれがさらに大社と小社に分けられる |
近代社格制度(明治時代~昭和初期)
1871年(明治4年)に明治政府によって制定された近代社格制度では、神社は「官社」と「民社(諸社)」に大きく分類されました。
官社はさらに以下のように細分化されていました。
- 官幣大社(かんぺいたいしゃ)
- 官幣中社(かんぺいちゅうしゃ)
- 官幣小社(かんぺいしょうしゃ)
- 国幣大社(こくへいたいしゃ)
- 国幣中社(こくへいちゅうしゃ)
- 国幣小社(こくへいしょうしゃ)
- 別格官幣社(べっかくかんぺいしゃ)
民社は以下のように分類されていました。
- 府社・県社
- 郷社(ごうしゃ)
- 村社(そんしゃ)
- 無格社(むかくしゃ)
この制度において、伊勢神宮は最尊貴の神社として社格制度の対象外とされ、別格の扱いを受けていました。
特別な格式を持つ神社の種類

二十二社(にじゅうにしゃ)
平安時代後期に制定された、国家の重大事に際して朝廷が奉幣した特別な22の神社です。1081年頃に制度として確立しました。
二十二社は格式の高い順に、上七社、中七社、下八社に分けられています。
上七社
- 伊勢神宮(三重県伊勢市)
- 石清水八幡宮(京都府八幡市)
- 賀茂別雷神社・上賀茂神社(京都市北区)
- 賀茂御祖神社・下鴨神社(京都市左京区)
- 松尾大社(京都市西京区)
- 平野神社(京都市北区)
- 伏見稲荷大社(京都市伏見区)
- 春日大社(奈良県奈良市)
※上七社は8社ありますが、賀茂両社を1つと数えるため七社とされています。
勅祭社(ちょくさいしゃ)
勅祭社とは、祭礼に際して天皇の勅使が遣わされる神社のことで、全国に16社しかない非常に格式の高い神社です。
伊勢神宮は別格として勅祭社には含まれません。
現在の勅祭社16社
| 神社名 | 所在地 | 勅使参向時期 |
|---|---|---|
| 賀茂別雷神社(上賀茂神社) | 京都府 | 毎年5月(葵祭) |
| 賀茂御祖神社(下鴨神社) | 京都府 | 毎年5月(葵祭) |
| 石清水八幡宮 | 京都府 | 毎年9月(石清水祭) |
| 春日大社 | 奈良県 | 毎年3月(春日祭) |
| 氷川神社 | 埼玉県 | 毎年8月 |
| 熱田神宮 | 愛知県 | 毎年6月 |
| 出雲大社 | 島根県 | 毎年5月 |
| 橿原神宮 | 奈良県 | 毎年2月(紀元祭) |
| 明治神宮 | 東京都 | 毎年11月 |
| 平安神宮 | 京都府 | 毎年4月 |
| 近江神宮 | 滋賀県 | 毎年4月 |
| 靖国神社 | 東京都 | 春秋の大祭 |
| 鹿島神宮 | 茨城県 | 6年ごと |
| 香取神宮 | 千葉県 | 6年ごと |
| 宇佐神宮 | 大分県 | 10年ごと |
| 香椎宮 | 福岡県 | 10年ごと |
葵祭、石清水祭、春日祭は「三大勅祭」と呼ばれ、特に重要視されています。
一宮(いちのみや)
平安時代後期から中世にかけて、各国(令制国)で最も有力とされた神社を「一宮」と呼びました。
国司が任国に赴任した際に最初に参拝する神社として定められていました。
一宮の下には二宮、三宮も存在する国がありました。
現在でも全国各地に「一宮」という地名が残っているのはこのためで、一宮を巡る「一宮巡拝」は神社参拝者の間で人気があります。
名神大社(みょうじんたいしゃ)
延喜式神名帳に記載された式内社の中でも、特に霊験著しいとされた神社を名神大社と呼びました。
これらの神社には国家的な祭祀である祈年祭などで特別な奉幣が行われていました。
現代の神社の格式
社格制度の廃止
GHQは1945年12月15日に神道指令(SCAPIN-448)を出し、公的な神社制度は1946年にかけて整理・廃止されました。
これにより、公的には全ての神社が対等の立場となりました(伊勢神宮を除く)。
(参考:神道指令|アジア歴史資料センター、連合国軍最高司令部指令|文部科学省)
別表神社(べっぴょうじんじゃ)
別表神社は戦後に神社本庁の規程で整理され、、神職の人事面で特別な扱いをする神社を「別表神社」として定めました。
別表神社は社格のような格付けではなく、あくまで神職の人事上の区別とされていますが、実質的には由緒や規模において有力な神社として認識されています。
別表神社の選定基準
- 由緒
- 社殿、境内地などの宗教施設の状況
- 常勤神職の数
- 最近3年間の経済状況
- 神社の活動状況
- 氏子崇敬者の概数、その分布等崇敬状況
現在、別表神社は全国に約350社あり、全神社数の1%にも満たない貴重な存在です。
当初は旧官国幣社のみでしたが、現在では旧府県社や護国神社なども含まれています。
ただし、神社本庁に属していない神社(伏見稲荷大社、日光東照宮、靖国神社など)は別表神社には含まれません。
神社の社号による分類
神社の名称の最後につく部分を「社号(しゃごう)」と呼びます。
社号によっても神社の格式や特徴がある程度わかります。
神宮(じんぐう)
最も格式が高い社号で、天皇の祖先神や皇室と深い関わりを持つ神を祀る神社に用いられます。
「神宮」とだけ言う場合は伊勢神宮を指します。
主な神宮の例
- 伊勢神宮(正式名称は「神宮」)- 三重県
- 明治神宮 - 東京都
- 鹿島神宮 - 茨城県
- 香取神宮 - 千葉県
- 熱田神宮 - 愛知県
- 宇佐神宮 - 大分県
- 橿原神宮 - 奈良県
- 平安神宮 - 京都府
「神宮」号は全国的に数が限られ、戦後に神宮号へ改称した例もあります。
(例:伊弉諾神宮、北海道神宮、英彦山神宮)
大社(たいしゃ、おおやしろ)
戦前までは出雲大社のみに使用されていた社号ですが、現在では全国に信仰が広がる総本社やそれに準ずる大規模な神社に使われています。
主な大社の例
- 出雲大社 - 島根県
- 春日大社 - 奈良県
- 諏訪大社 - 長野県
- 伏見稲荷大社 - 京都府
- 住吉大社 - 大阪府
- 松尾大社 - 京都府
明治時代の社格制度で官幣大社や国幣大社だった神社が、戦後に大社と名称を変更するケースが多く見られました。
宮(ぐう、みや)
天皇や親王などの皇族を祀る神社に用いられる社号です。
また、菅原道真(天満宮)や徳川家康(東照宮)など、皇族以外でも政権に関わった重要な人物を祀る神社にも使われます。
主な宮の例
- 天満宮系 - 太宰府天満宮(福岡県)、北野天満宮(京都府)など
- 東照宮系 - 日光東照宮(栃木県)、久能山東照宮(静岡県)など
- 八幡宮系 - 鶴岡八幡宮(神奈川県)、石清水八幡宮(京都府)など
- その他 - 香椎宮(福岡県)、水天宮(福岡県・東京都)など
神社(じんじゃ)
最も一般的な社号で、全国に約8万社以上存在します。
神社を名乗るための特別な条件や基準がないため、多くの神社がこの社号を使用しています。
神社の社格ランキング総まとめ
歴史的社格の序列(近代社格制度)
明治時代から昭和初期にかけて存在した近代社格制度での序列は以下の通りでした。
- 神宮(伊勢神宮)- 別格
- 官幣大社
- 国幣大社
- 官幣中社
- 国幣中社
- 官幣小社
- 国幣小社
- 別格官幣社(官幣小社と同等の待遇)
- 府社・県社
- 郷社
- 村社
- 無格社
官幣社は神祇官から直接奉幣を受ける神社で、国幣社より格が上とされていました。
官幣社の多くは二十二社や天皇・貴族を祀る朝廷ゆかりの神社で、国幣社は各国の一宮や地方の有力神社が中心でした。
現代における神社の格式の目安
現在は公的な社格制度は存在しませんが、以下のような要素が神社の格式や重要性を示す目安となります。
| 格式・区分 | 特徴 | 該当数 |
|---|---|---|
| 神宮(伊勢神宮) | 日本の神社の最高峰、別格の存在 | 1社 |
| 勅祭社 | 天皇の勅使が参向する最高格式の神社 | 16社 |
| 二十二社 | 平安時代からの格式高い神社(近畿地方中心) | 22社 |
| 別表神社 | 神社本庁が特別扱いする有力神社 | 約350社 |
| 式内社 | 延喜式神名帳に記載された古社 | 2,861社 |
| 一宮 | 各国で最も有力な神社 | 各国1~3社 |
旧官幣大社の代表的な神社
明治時代に最高位の社格だった官幣大社の代表例をご紹介します。
- 北海道神宮(北海道札幌市)
- 鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)
- 香取神宮(千葉県香取市)
- 氷川神社(埼玉県さいたま市)
- 明治神宮(東京都渋谷区)
- 諏訪大社(長野県諏訪市)
- 熱田神宮(愛知県名古屋市)
- 賀茂別雷神社・上賀茂神社(京都市北区)
- 賀茂御祖神社・下鴨神社(京都市左京区)
- 石清水八幡宮(京都府八幡市)
- 平野神社(京都市北区)
- 伏見稲荷大社(京都市伏見区)
- 松尾大社(京都市西京区)
- 平安神宮(京都市左京区)
- 春日大社(奈良県奈良市)
- 橿原神宮(奈良県橿原市)
- 住吉大社(大阪府大阪市)
- 廣田神社(兵庫県西宮市)
- 出雲大社(島根県出雲市)
- 宇佐神宮(大分県宇佐市)
- 香椎宮(福岡県福岡市)
神社の格式を知るメリット

参拝計画の立てやすさ
旧社格や別表神社などの情報は、神社参拝の計画を立てる際に役立ちます。
格式の高い神社は一般的に以下のような特徴があります。
- 社殿や境内が整備されている
- 常駐の神職がいる可能性が高い
- 御朱印を授与している
- 歴史的・文化的な見どころが多い
- アクセスが比較的良好
歴史や文化の理解
神社の社格や格式を知ることで、その地域の歴史や文化、朝廷との関わりなどを深く理解することができます。
特に一宮は各地域の中心的な神社として、地域の歴史を知る上で重要な存在です。
御朱印巡りの目標設定
「二十二社巡り」「勅祭社巡り」「一宮巡り」「別表神社巡り」など、社格や格式を基準にした神社巡りは、御朱印集めの明確な目標となり、日本各地を巡る楽しみにつながります。
社格と御利益は無関係
重要な点として、社格が高いからといって御利益が強いわけではありません。
神社参拝において最も大切なのは、自分の願いに合った神社を選ぶこと、そして神様との縁を大切にすることです。
格式にこだわりすぎず、地域に根ざした小さな神社にも素晴らしい御利益や歴史があることを忘れないようにしましょう。
格式はあくまで神社を理解するためのひとつの目安として活用することをおすすめします。
まとめ

神社の社格・格式は、平安時代から明治・昭和にかけて様々な形で存在してきました。
現在は公的な社格制度は廃止されていますが、歴史的な格式や別表神社などの区分は、神社を理解し参拝計画を立てる上で有用な情報となります。
伊勢神宮を最高峰とし、勅祭社16社、二十二社22社、別表神社約350社といった区分を知ることで、日本の神社文化をより深く理解することができます。
ただし、社格はあくまで参考情報として捉え、自分に縁のある神社、願いに合った神社を大切に参拝することが何よりも重要です。
神社巡りの際には、社格や格式の知識を活用しながら、それぞれの神社が持つ独自の歴史や魅力を発見する楽しみを味わってください。