お正月に3つの神社を詣でる「三社参り」。
福岡県民や周辺地域の人にとっては当たり前の習慣ですが、実は全国的には珍しい風習であることをご存知でしょうか?
この記事では、三社参りの意外な歴史や由来、福岡で定番の「三社」の組み合わせ、そして参拝のルールについて詳しく解説します。
三社参り(さんしゃまいり)とはどのような風習か

お正月のニュースや会話の中で耳にする「三社参り」。
九州地方、特に福岡県出身の方にとっては馴染み深い言葉ですが、地域によっては全く聞き馴染みのない言葉かもしれません。
まずは、三社参りが具体的にどういった風習なのか、その定義や期間、行われている地域について詳しく解説していきます。
三社参りの基本的な意味と期間
三社参りとは、その名の通り「お正月の間に3つの神社(または寺院)を詣でること」を指します。
特定の3社が固定されているわけではなく、地元の氏神様や崇敬する神社、あるいは有名な大きな神社など、自分でお参り先を選んで巡るのが一般的です。
参拝する期間についても厳密な決まりはありませんが、一般的には「お正月三が日(1月1日〜3日)」の間に行うのが望ましいとされています。
しかし、近年では混雑緩和やスケジュールの都合もあり、松の内(関東では1月7日、関西や九州の一部では1月15日頃まで)を目安に済ませれば良いという考え方が広まっています。
福岡だけ?全国的な知名度と実施されている地域
実はこの三社参り、日本全国どこでも行われている風習ではありません。
主に福岡県を中心とした九州地方、および中国地方の一部に根付いている独特の文化です。
福岡県民にとっては「初詣=三社参り」という感覚が強いため、上京して初めて「三社参りが全国共通ではない」と知り驚くケースも少なくありません。
関東や関西にも「東国三社参り」や「熊野三山」などの巡礼文化は存在しますが、お正月の一般常識として「必ず3箇所巡る」という習慣が定着しているのは、やはり西日本の一部、特に福岡の特徴と言えるでしょう。
初詣との違いはあるのか
よくある疑問として「初詣と三社参りは別物なのか?」というものがありますが、結論から言えば三社参りは「初詣の形式のひとつ」です。
一般的な初詣が「新年に初めて神社やお寺にお参りすること(多くは1箇所)」であるのに対し、三社参りは「新年の挨拶回りを3箇所に対して行うこと」と言い換えられます。
「1社だけではご利益が足りない」という意味ではなく、複数の神様に新年のご挨拶をすることで、より多くのご神徳を授かり、一年の平穏を願うという前向きな信仰心が込められています。
なぜ三社なのか?三社参りの歴史と由来

福岡県民にとってあまりに日常的な風景であるため、「なぜ3つなのか」「いつから始まったのか」を深く考える機会は少ないかもしれません。
実は、三社参りの起源には諸説あり、明確な文献が残っているわけではありませんが、「数字的な意味」や「福岡独自の歴史的背景」が深く関係していると言われています。
「三」という数字に込められた意味
そもそも日本において、「三」という数字は非常に縁起が良いものとされています。
陰陽道では奇数は「陽」の数とされ、その中でも3は「調和」や「安定」を象徴する数字です。
「三三九度」や「三種の神器」、「早起きは三文の徳」など、古くから生活の中に浸透してきました。
(参考:数字の「3」に関わる各種の話題-数多くの場面で現れてくる数字だが-|ニッセイ基礎研究所)
また、仏教や神道においても「3」は重要視されます。
過去・現在・未来の三世や、天・地・人の三才など、世界を構成する要素が3つで一つにまとまるという考え方があります。
こうした背景から、1社だけでなく3社を巡ることで「より強固で完全なご利益を得られる」という信仰心が生まれやすかったと考えられています。
福岡で定着した背景
では、なぜ特に福岡でこの風習が定着したのでしょうか。
有力な説として挙げられるのが、江戸時代の福岡藩主・黒田家(黒田藩)の影響です。
福岡藩の武士たちは信仰心が厚く、正月に「朝廷・将軍家・藩主」への忠誠、あるいは「氏神・崇敬神社・特定の有力神社」への祈願として、3つの神社を巡拝する習慣があったと伝えられています。
特に江戸時代、黒田家が正月に住吉神社・筥崎宮・日吉神社(山王・比恵山王宮)へ参拝していたと伝わり、これが家臣や町の人々にも徐々に広がっていった、という説明がされています。
(参考:福岡人はなぜ三社参りをするのか!?|RKB毎日放送)
この「お殿様の習慣」を庶民が真似て広まったという説が、現在では最も広く信じられている説です。
鉄道の販促と初詣ブーム
もう一つの背景として、挙げられるのが、近代の交通・観光の発展です。
お正月の参詣(初詣)が“いまの形”で全国的に定着する過程では、鉄道会社の宣伝・輸送施策が大きく関わったことが紹介されています。
福岡の三社詣についても、大正後期に鉄道会社の販促が後押ししたという語られ方があり、複数社を回る「ルート化」が広まりやすかった、という見方につながります。
いずれにせよ、多くの神様に守られたいと願う人々の純粋な祈りこそが、この独自の文化を現代まで継承させてきたと言えるでしょう。
【福岡の定番】三社参りで巡るべき代表的な神社

はじめにお伝えすると、三社参りには「絶対にこの3社でなければならない」という決まりはありません。
しかし、多くの福岡県民が選ぶ「定番の三社」というものが存在します。
ここでは、福岡県内で特に参拝客が多く、三社参りのルートとして人気が高い代表的な神社と、福岡市内中心部で回りやすいおすすめコースをご紹介します。
太宰府天満宮(学問の神様)

太宰府天満宮は、年間約1,000万人もの参拝客が訪れる、全国天満宮の総本宮です。
菅原道真公を祀っており、「学問・至誠・厄除け」の神様として圧倒的な知名度を誇ります。
受験生がいる家庭はもちろん、新年の安泰を願う人々で三が日は大変賑わいます。参道で名物の「梅ヶ枝餅」を食べながら参拝するのが、福岡の初詣の定番スタイルです。
筥崎宮(勝運の神様)

日本三大八幡の一つに数えられる筥崎宮(はこざきぐう)は、「勝運の神様」として有名です。
楼門に掲げられた「敵国降伏」の扁額が象徴するように、厄除・勝運の神として古くから武将たちに崇敬されてきました。
現在では、福岡ソフトバンクホークスが必勝祈願に訪れることでも知られています。
これから新しいことに挑戦する方や、勝負の年を迎える方に最適な神社です。
宮地嶽神社(商売繁昌・開運)

福津市に位置する宮地嶽(みやじだけ)神社は、「商売繁昌」のご利益で知られ、特に会社経営者や自営業の方に人気があります。
見どころはなんといっても、日本一の大きさを誇る「大注連縄(おおしめなわ)」です。
また、参道から海へと一直線に伸びる景色は、季節によって夕陽が輝く「光の道」としても有名です。
「何事にも打ち勝つ開運の神様」として、三社参りのルートに加える人が多くいます。
市内中心部で回れるおすすめコース
上記の3社は少し距離が離れているため、1日で回るには車や電車での移動時間がかかります。
「もっと手軽に、福岡市内中心部で三社参りを済ませたい」という方には、以下の組み合わせがおすすめです。
- 住吉神社(博多区):全国2,000社以上ある住吉神社の始祖。「開運除災」のご利益。
- 櫛田神社(博多区):「お櫛田さん」の愛称で親しまれる博多の総鎮守。「不老長寿・商売繁盛」。
- 警固神社(中央区):天神のど真ん中に位置する。「厄除け・必勝」の神様。
この3社であれば、公共交通機関や徒歩を使っても半日程度で十分に回ることが可能です。
自分の住んでいる地域や、その年の目標に合わせて自由に組み合わせを選んでみてください。
決まりはある?三社参りの正しいやり方とマナー

いざ三社参りに行こうとすると、「回る順番は?」「お寺でもいいの?」といった素朴な疑問が浮かんでくるものです。
ここでは、三社参りを気持ちよく行うための正しいルールやマナーについて解説します。基本を知っておくことで、迷いなくスムーズに参拝できます。
参拝する順番に決まりはあるのか
結論から言うと、三社参りに決まった参拝順序はありません。
「格の高い神社から行くべき」といった説も時折耳にしますが、厳密に定められたルールではないため、移動ルートの効率が良い順に回って問題ありません。
ただし、昔ながらの習わしを大切にしたい場合は、まず自分の住んでいる地域の「氏神様(地元の神社)」に一番にご挨拶に行き、その後に有名な神社や崇敬する神社へ向かうのが丁寧な流れとされています。
まずは一番身近な神様に感謝を伝え、それから遠出をするという心掛けは素敵ですよね。
神社とお寺を混ぜても良いのか
「三社」という言葉から「神社限定」と思われがちですが、お寺(寺院)を含めても全く問題ありません。
日本には古くから「神仏習合(神様と仏様を調和させる考え)」の歴史があります。実際、成田山不動尊などのお寺も初詣スポットとして非常に人気があります。
神社2社+お寺1社、あるいはその逆でも構いません。大切なのは形式よりも「お参りしたい」という気持ちです。
ただし、神社は「二礼二拍手一礼」、お寺は「合掌(手を叩かない)」など、参拝作法が異なる点には注意しましょう。
お賽銭や服装に関する基本マナー
三社参り特有のマナーというものはありませんが、一般的な初詣のマナーを守ることが大切です。
服装に厳格な決まりはありませんが、神様の前に出るため、ジャージやサンダルなどは避け、清潔感のある服装を心がけましょう。また、待ち時間が長くなるため防寒対策は必須です。
お賽銭については、金額の多寡よりも気持ちが重要ですが、「ご縁がありますように」との願いを込めて5円玉を用意する人が多いです。
3箇所回るため、小銭が不足しないようあらかじめ小銭を用意しておくと、お賽銭箱の前で慌てずに済みます。
混雑を避けるための参拝のコツと時期
人気のある神社を3つ回ろうとすると、移動時間も含めて丸一日、あるいはそれ以上かかってしまうこともあります。
特に太宰府天満宮や宮地嶽神社などの有名スポットは、三が日の日中は駐車場に入るだけで数時間待ちということも珍しくありません。
スムーズに三社参りを行うコツは以下の通りです。
- 公共交通機関を利用する(渋滞や駐車場待ちを回避)
- 早朝や夕方以降の時間帯を狙う
- 三が日にこだわらず、松の内(1月7日または15日頃)までに回る
無理をして疲れてしまっては元も子もありません。日程を分散させて、余裕を持って参拝することをおすすめします。
豆知識:和歌山など他地域における「三社参り」との違い

ここまで「三社参りは福岡・九州の風習」と解説してきましたが、検索をすると「東国三社」や和歌山の「三社参り」といった情報が出てくることがあります。
実は、他地域にも似た言葉や風習は存在しますが、その意味合いや目的には少し違いがあります。
ここでは、混同しやすい他地域の三社参りについて解説します。
東国三社参りや熊野三山との区別
関東地方(茨城県・千葉県)には、江戸時代から続く「東国三社参り」という言葉があります。
これは、鹿島神宮(茨城)、香取神宮(千葉)、息栖神社(茨城)の特定の3つの神社を巡ることを指します。
お伊勢参りの帰りに立ち寄る禊(みそぎ)の旅として人気を博しました。
また、和歌山県には「熊野三山」(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)を巡る信仰があります。
これらに共通するのは、あくまで「特定の聖地セット」を巡ることを指しており、福岡の三社参りのように「お正月に地元の任意の3社を巡る一般的な行事」とは、少しニュアンスが異なります。
地域によって異なる「三社」の定義
福岡の三社参りの最大の特徴は、「場所が固定されていない」という点です。
太宰府天満宮に行く人もいれば、近所の小さな氏神様を3つ回る人もいます。
あくまで「3つの神社に参拝する」という行動そのものに重きが置かれています。
一方で、他地域の「〇〇三社参り」は、観光ルートや特定の信仰ルートとして固定されているケースがほとんどです。
もし県外の方と三社参りの話をする際は、「どこの神社に行くの?」と聞かれたときに、「自分たちで好きな組み合わせを決めるんだよ」と伝えると、その文化の違いに驚かれるかもしれません。
まとめ:三社参りで新年の運気を上げよう
ここまで、福岡・九州地方に根付く「三社参り」の歴史や由来、具体的な参拝スポットについて解説してきました。
三社参りは、単に「3つの場所を回る」というスタンプラリー的なイベントではありません。地域の歴史や信仰心が深く結びついた、心温まる風習です。
「太宰府天満宮で学業成就を」「筥崎宮で勝運を」「地元の氏神様で家内安全を」と、それぞれの神社の特徴に合わせて願い事を分けるのも、三社参りならではの楽しみ方と言えるでしょう。
もちろん、「三社参り」の形式にとらわれすぎる必要はありません。
大切なのは、新しい年の始まりに、清々しい気持ちで神様に手を合わせ、感謝と決意を伝えることです。
今年はぜひ、ご家族や友人と、あるいは一人でゆっくりと、三社を巡ってみてはいかがでしょうか。
皆様の新しい一年が、三つの神社の後押しを受けて、より素晴らしいものになりますように。